『おもひでぽろぽろ』(高畑勲)

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『太陽の王子』に始まり『かぐや姫』までつづく、労働賛美の視点はここでも反復される。休暇を取って田舎に行くというタエ子に上司が「失恋でもしたの」と声をかける。そのときのタエ子の表情。温厚でやさしいが、その実、かなり前時代的なパターナリズムを体験している父。そこはかとない男性中心社会をさらりと描く手つきに舌を巻く。後の「かぐや姫」におけるフェミニズム的な視点につながっていきそう。小学生のころは広田くんとの甘酸っぱい初恋エピソードに目が行きがちだったが、今見るとあべくんとのエピソードのほうがはるかに重要。ラスト、駅での別れの場面で、タエ子とトシオたちの間にランニング姿の中年男が割って入り、別れの挨拶がうやむやになってしまう。この描写はまったく覚えていなかったので驚いた。アニメーション的リアリズムを突き詰めた人物描写と背景に、緻密に計算された高畑の演出が合わさった傑作。